エリート御曹司と愛され束縛同居
翌日、優しく髪を梳かれる感触を感じて重い瞼を持ち上げると、眼前に柔らかな表情の遥さんがいた。

「おはよう、澪」

私と同じ寝起き姿なのに驚くほど美麗で色香の漂うその容貌に声が出なくなる。

寝ぼけていた頭が一気に覚醒した。


……そうだ、昨日婚姻届を渡されて……思い出して頬が瞬時に熱くなる。


頭の中であれこれ考えを巡らせている私を面白がるように、啄むようなキスが唇に落とされた。


「目が覚めたか?」

もう何度もこうして一緒に朝を迎えているのに妖艶な姿に胸が高鳴り、遥さんへの想いに際限はないと再認識する。

いくら年齢を重ねても好きな人の前で寝起きの姿を晒す羞恥は拭えない。

慌てふためく私を楽しそうに眺める婚約者が毎回憎らしくもある。

土曜日の今日は休日だが、彼はどうなのだろう。

頭の中で私が把握しうる限りの仕事内容を思い浮かべていると、今日は大事な用事があるから休みをとる、と説明された。


「出かけるから支度して」

唐突に言われて訝しみながらも、身支度を整える。

遥さんは濃紺のスーツを身につけていた。

少し畏まった服装をしてほしいと言われたがそれ以上はなにを聞いても一切教えてくれなかった。


あれよあれよという間に外に連れ出され、遥さんの運転する高級車の助手席に乗せられる。

普段彼は送迎されているので自身が運転するのは休日のみだ。

何度か乗せてもらったが運転する姿はこれまたとてもカッコ良く、ドキドキして心が落ち着かなくなる。

本当になにをしても様になると思ってしまうのは恋のなせる業だろうか。
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