初夜から始まる夫婦事情~一途な次期社長の溺愛は鎮まらない~

進藤伊吹の名前は、たしかに知っている。

桜川都市開発には大勢の社員がいる為、全員の氏名を記憶するのは無理だ。

そんな中で聞き覚えがあるのは、活躍している証拠だ。きっと優秀な社員なのだろう。

会社としては良いことだ。しかし個人的には複雑だった。

「よく総務に来るのか?」

「最近ね。総務と言うより桐ケ谷さん目当てだな」

やはりと思った。この手の勘はだいたい当たる。

結婚した件はまだ公表していないので、香子に近付く男が居ても不思議ではない。
予想は出来た状況だ。それでも知ってしまうと気分はよくない。

「あからさまな態度なのか?」

「そこまでは。だから桐ケ谷さんも気付いていないと思うよ。それより、うちの部の新人の方が問題だ」

「新人って香子が指導している子か?」

真田は「そうだ」と頷いた。

「進藤君を気に入ったみたいで、それを隠しもしない。桐ケ谷さんも対応に困ってるみたいだ」

「困ってる?」

香子は家ではそんな素振りはしていない……俺に気を遣っているのか?

夫婦仲は日々よくなっていると感じているが、やはりまだ距離があるのだろうか。
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