クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 今日はそのイメージを脱却するためにも、それなりに張りきった。肩下まであるストレートのヌーディーベージュの髪はハーフアップにして、七センチのヒールパンプスはドレスコードのため。

 普段はもう少し低めのヒールなので正直、足も痛む。

 着ている淡いライトブルーのドレスはデザインはシンプルに、袖と裾は控えめなシースルー仕様になっている。

 そこに上品さを意識して大振りのパールのネックレスを添えて、私は無難に会場に溶け込んでいた。

 今年の創立記念パーティーに合わせて新調した下ろしたてだ。もう二十代も後半だし、友人の結婚式に出席する予定もあるので奮発して少々いいものにした。

 美味しい料理に舌鼓(したつづみ)を打ち、同僚たちとのお喋りに花を咲かせ、私なりに存分に楽しむ。

 とはいえこれはあくまでも職場の延長で、おまけに慣れない格好と場所に疲労はピークに達していた。時計を確認し、雰囲気から頃合いを見計って私は会場から抜け出す。

 社員としては最後の社長の挨拶までいるべきなのかもしれない。でも誰がいるとかいないとか細かく把握する人間もいないだろうし。

 毎年律儀に参加して、そのたびに感じる。やっぱり私には、こういったところは場違いなんだ。

 嘲笑めいたものをこっそり浮かべて足を動かし、エレレベーターの方へ向かう。

 会場の外のスペースも広く、中心には大胆に色とりどりの生花(せいか)が豪快に生けられ、そこを囲んでソファ席が設けている。

 エレベーターと反対方向にはホテルの偉い手か、スーツ姿の男性数人がなにやら打ち合わせめいたものをしていた。

 彼らを尻目にエレベーターのボタンに手を伸ばそうとしたときだった。

「谷川さん」

 不意に声をかけられ慌ててそちらを向く。同僚の岡元(おかもと)くんだった。
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