クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「汐里さえよかったら会いたい。会って、話したいことがあるんだ」

 それは、今じゃ駄目なの?

 喉元まで出かかった言葉を慌てて飲み込む。今、亮は大一番の仕事が差し迫っているわけだし。けれど逆に言えば今、気軽に話せる内容じゃないってこと?

「……うん。次の土曜日はとくに予定がないから。連絡待ってるね。でも疲れてたり、遅くなりそうなら無理しなくていいから」

 心とは裏腹に、私は極力明るく答えた。さらに今日のお礼と土曜日の成功を祈る言葉を口にし、ドアに手をかけようとする。

「汐里」

 しかし亮に呼び止められ、再度彼の方を向けば亮は私の髪先をなにげなくすくい取った。

「髪も服もよく似合ってる。とくにそのワンピース。せっかくだから今度は明るいときに着てこいよ」

「ありがとう」

 デートだとお洒落に気合いを入れたのは無駄ではなかったらしい。しばし彼と見つめ合った後、先ほどとは違いどちらからともなく顔を近づけ唇を重ねる。

 亮と別れ、幸せに満たされた気持ちで私はアパートの自室に戻った。

 次に彼に会えるのが待ち遠しい。エアコンをつけ、お風呂のお湯を溜めようとバスルームへ向かった。その際、鏡で褒めてもらったワンピース姿を改めて確認し、笑顔になる。

 うん、大丈夫。今度こそ……私たちは上手くいってる。

 鏡の向こうの自分も笑っている。その一方で、無意識に言い聞かせる形になっているのは、心の奥底にある不安を取り除くためなのだと、このときは気づかないふりをした。
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