PTSDユートピア
しかし冬峰さんは悲しそうに俯いた。
「……数や関係性なんて関係ないわ。私は生きているだけで周囲を不幸にするの」
「それはどういう意味?」
「そもそも私が盲目じゃなければきっといじめなんて起こらなかった。そのせいで学級が乱れることも、お母さんが私の介護に加えて高い精神科の通院費を払うことも……そして私が騙され、人を殺してしまうことも」
「……そんなこと、ないよ」
自分でも悲しいくらい空虚な言葉が、虚空を震わせる。
彼女は、そんな僕に柔らかくて鋭い言葉を投げた。
「なら――もし雨宮君だったら、一生私のことを支えてくれる?」
僕の口は、開いてくれなかった。
そんな僕に、冬峰さんはただ黙って微笑みかける。
彼女はよく笑う。それはきっと、迷惑をかけ続ける周囲の人間に対する精いっぱいの『罪滅ぼし』なのだと思う。
だからこそ僕の薄っぺらな言葉を責めたり否定したりなんかしない。
最初から彼女は誰にも何も求めていない。その事実がどうにも悔しくて、僕は拳を握った。
「……君の歌を、聴かせてよ」
「え?」
唐突な頼みに、冬峰さんが戸惑う。
「いきなりどうしたの……? その、いくら雨宮君でも恥ずかしいし、あれはただの自己満足だし……」
「お願いだ。冬峰さんが今唯一やりたいと思えること、それを聴けば……きっと何かが分かる気がするんだ」
僕が真剣だと悟ったのか、逡巡の末冬峰さんはスマホを取り出した。
「その……本当に期待しないでね……」
ほんのり頬を染めながらユートピアートを起動し、イヤホンを繋げて僕に渡す。
「ありがとう」
僕はそれを受け取ってイヤホンを耳に差し、再生ボタンを押して――
瞬間、世界が鮮やかに色づいた。
「……数や関係性なんて関係ないわ。私は生きているだけで周囲を不幸にするの」
「それはどういう意味?」
「そもそも私が盲目じゃなければきっといじめなんて起こらなかった。そのせいで学級が乱れることも、お母さんが私の介護に加えて高い精神科の通院費を払うことも……そして私が騙され、人を殺してしまうことも」
「……そんなこと、ないよ」
自分でも悲しいくらい空虚な言葉が、虚空を震わせる。
彼女は、そんな僕に柔らかくて鋭い言葉を投げた。
「なら――もし雨宮君だったら、一生私のことを支えてくれる?」
僕の口は、開いてくれなかった。
そんな僕に、冬峰さんはただ黙って微笑みかける。
彼女はよく笑う。それはきっと、迷惑をかけ続ける周囲の人間に対する精いっぱいの『罪滅ぼし』なのだと思う。
だからこそ僕の薄っぺらな言葉を責めたり否定したりなんかしない。
最初から彼女は誰にも何も求めていない。その事実がどうにも悔しくて、僕は拳を握った。
「……君の歌を、聴かせてよ」
「え?」
唐突な頼みに、冬峰さんが戸惑う。
「いきなりどうしたの……? その、いくら雨宮君でも恥ずかしいし、あれはただの自己満足だし……」
「お願いだ。冬峰さんが今唯一やりたいと思えること、それを聴けば……きっと何かが分かる気がするんだ」
僕が真剣だと悟ったのか、逡巡の末冬峰さんはスマホを取り出した。
「その……本当に期待しないでね……」
ほんのり頬を染めながらユートピアートを起動し、イヤホンを繋げて僕に渡す。
「ありがとう」
僕はそれを受け取ってイヤホンを耳に差し、再生ボタンを押して――
瞬間、世界が鮮やかに色づいた。