幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
そんなことを思っていると、研究室のドアが叩かれた。
(まさか健一郎だったりして……)
そんなあり得ない想像をして苦笑する。たった一日でどれだけさみしいのだ。
次の瞬間、研究室に入ってきたのは真壁くんだった。
「三波、大丈夫だった?」
(そういえば、真壁くんは、熱が出るって言ってくれてたんだった)
真壁くんって、昔からすごい。周りをよく見ている。
医者になりたいなんて、聞いたことなかったから驚いたけど、今思えば、すごく医者に向いていると思う。
「うん。ありがとう。心配してくれて」
私は笑う。しかし、真剣な顔の真壁くんを見て、どうしたの? と聞くと、一時おいて、真壁くんが口を開く。
「あいつは……佐伯先生は、本当にお前を大事にしてくれてるのか?」
思ってもなかった言葉に私は真壁くんの顔を見た。
(大事にしてくれているのか? ってどういうこと?)
「え……」
「だって、最近ずっと疲れた顔してる」
果てしない体力をもつ健一郎といて、正直疲れてはいるけど、でも、それは私にとって悪いものではなかった。健一郎に合わせること自体、心地よく思っている自分がいる。
むしろ健一郎はいつだって私中心で、私のことばかり考えていて、それが少し気になるくらいなのだ。
「最近は仕事が忙しいだけ。健一郎、優しいし大丈夫だよ」
「あいつがお前を手に入れたいから優しくするのは当たり前だって。それに、今日の学会ってさ」
「なに?」
「あっちで桐本先生と会うんだよな?」
ドキリとした。
先ほど想像したことだ。同じ消化器内科で、今日は消化器内科の研究会。会わないわけはない。でも、私は健一郎を信じてる。
「それはそういう事もあるよね。同じ科だもん。でも私は健一郎のこと信じてるし」
「うわさで聞いたけど……桐本先生とホプキンスに誘われてるって」
「……」
「やっぱり知らなかった?」
私はいつの間にか自分の拳を強く握っていた。
(健一郎はそういう事、私には相談してくれない)