幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
僕は昔、正直に言うと、三波さんが苦手だった。
「健一郎を私のお嫁さんにしてあげる! だから健一郎はお医者さんになってよ」
三波さんが自分になついてくれているのは感じていた。
近所の、大きな医院のお嬢さま。あけっぴろげで、純粋で、良くも悪くもかごの中の鳥だ。
きっと何の苦労もせずに大きくなり、当たり前のように、決められた相手と結婚するのだろう。本人もそれを嫌とも感じることもなく。
対して自分は、裕福ではない、いや、絵にかいたような貧乏な家庭に育ち、金遣いが荒い父と、その父のために昼と夜となく働く母の姿を見て育った。
それでも母は文句も言わず父に尽くしていた。
僕は、二人の姿を見るのが嫌で、しかし、ぐれるほどの勇気もなく、小中高と放課後は図書室で勉強をして過ごすような少年時代だった。人と話すのも億劫で、ほとんど友達もいなかった。
早く家を出たい、その一心で勉強していた。高校になってからは家庭教師のバイトもできてお金もたまっていき家計を助けることもできた。
成績も学年でトップ。周りは当然のように僕が大学進学するものと思っていたようだったが、僕は、正直、高校を卒業したら就職して、すぐにでも家を出ようと思っていたのだ。
―――そんな僕に、転機は突然訪れる。
二人で出かけた両親が事故に遭い、亡くなったのだ。