幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

「おはよー! なに? 朝からため息ついて」

 元気に研究室に入ってきたのは、助教の森下先生だ。
 大学では、教授以下、准教授、講師、助教、助手という上下関係で並ぶ。医学部は特にその序列がはっきりとしている研究室も多く、権威ばった教授がいる研究室内では、教授の命令は絶対でぴりっとした空気となっている。
 教授のカラーはその研究室のカラーともいわれる中、私は父の親友であり、非常に優しい本橋教授率いるこの研究室で事務員として働かせてもらっているため、あまりその序列もぴりぴりとした空気も感じたことは無い。非常にありがたいことだ。
 そして、本橋研究室の中には数人の先生がいるが、その中で唯一女の先生。年も近くて、私の相談相手でもあるのが助教の森下先生なのだ。

「母から電話があったんです」

 私はまた、ため息をつく。母の電話の内容は、『いつものもの』だった。最近は、例の年齢が近づいてきたこともあり、電話の頻度も増えている。

「あぁ、お見合いの催促ね。いなかで結婚したら三波ちゃんがここからいなくなるってわかってても、三波ちゃんがいなくなるのはさみしいわ。ずっとこっちにいて!」
「私だって……! 森下先生と一緒に飲みに行くのも遊びに行くのも大好きなのに!」
「うんうん、今日も行こう! 駅前に新しい店ができたの気になってるの」
「もちろん行きます!」

 そして私たちは、二人で飲みに行っては、森下先生は好きな赤ワインをたらふく飲み、私はビールを飲みながら愚痴を言う。愚痴と言っても、研究室内と言うよりは、私は別の研究室に所属している『幼馴染』のことについてだし、森下先生は私は名前も知らない嫌いな先輩のことだが……私たちは彼らをお酒を飲む口実にしながら、小さな女子会を繰り返し開催していたのだ。

 こんなこともあと一か月でできなくなる。
 正直、これは結構悲しい。
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