幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。
残業あとだったので、飲み会の始まりは21時を回っていた。
最初の一杯。例のごとく、森下先生は赤ワイン、私はビールをぐびぐび飲んで、ぷはーと大きな息を吐く。
もはや、女子会とは名ばかりの『おっさん会』だ。
「あぁ、もうあと一か月! 絶望です!」
私は、どん、とビールのグラスをテーブルに置くと叫ぶ。すると店員さんが手慣れた様子でやってきて、私たちはすばやく二杯目を頼んだ。ペースが速いのも、いつものことだ。
「何度も言ってるけど。私は東宮先生でいいと思うのよ。そしたら、お父様がご引退されるまではこっちにいれるんでしょ?」
「そうなんですけど、『あれ』ですよ。結婚する気になるはずないじゃないですか」
私はふと目線を店のカウンターにやる。
「今日も来てるわね。東宮先生……忙しいのに、さすがだわ」
「もう少し大学から遠くの店にすればよかった!」
頭を抱えた私の目線の先には、もちろん健一郎がいた。東宮健一郎、その人が、カウンターで一人、ウーロン茶を飲んでいる。明らかにおかしい。
「……ストーカーめ!」
私は叫んで一気に二杯目のビールを飲み干すと、立ち上がった。
(やば、頭がくらくらする……)
そのさえない頭で健一郎の横にドスドスと歩いて行った。
「あのさ、いい加減にして! 暇なの!? 仕事途中なら、早く大学に戻りなさい! 仕事終わったならさっさと家に帰りなさい!」
「いいじゃないですか。ただ飲んでるだけですよ」
「よくない! この店に来てウーロン茶!? 一人で? ほんと、ストーカーしないでよ! 変態!」
「ただ三波さんのことが心配なんです」
「早く大学戻らないと絶交! もう口を利かないから!」
「それは困りますね……」
本当に困ったように健一郎はつぶやく。
(何が『困りますね』だ。困っているのは私の方だ!)
この男は、私の幼馴染兼ストーカーなのだ。
昔から私にまとわりついてくるロリコンで、気持ち悪いことこの上ないが、父や本橋教授にはなぜか信頼されている。そこも腑に落ちない。
医者としての腕はいいと聞くが、私はこんな気持ち悪いストーカーに、病気になっても診てほしいだなんて思わない。
もしこの世に健一郎しか医者がいないとしても、私は診てほしいとは思わない。この気持ちに嘘はない。絶対だ。それぐらい、この男は気持ち悪いのだ。
しぶしぶと言った様子で健一郎が店を出るのを見送って(見送るといってもいい意味ではない。出ていくのを見ないと落ち着かないだけだ)、私は森下先生のいるテーブルに戻った。
「あんな幼馴染、私も欲しかったなぁ」
森下先生は平気で恐ろしいことを口にする。それは、あの変態ぶりを表面上でしか知らないからだ。
「迷惑でしかないんです! 健一郎のせいで、私は彼氏もできないんだから」
「まぁ。その年で、年齢=彼氏ナシは……絶望的ね…。それで結婚するって……ねぇ?」
森下先生にそう言われて、私は深いため息をつく。
そうだ、私の誕生日は迫っている。
彼氏がいないまま、好きな人もいないまま、私はお見合いをして、結婚することになるのだ。別にいいのかもしれない。別にそれでも……。でも、やっぱり憧れはする。私だって一応女子だ。
「どうせ結婚はしなきゃいけないんだから、それまでに彼氏くらいほしかったです。キスだってエッチだって、最初だけは好きな人とできたら……幸せだろうな」
これが最近の私の口癖であった。
―――まさかこの口癖が新たなストーカーを生もうとは、この時の私は知る由もなかったのだ。