幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 そんな私に森下先生は言う。

「今度の学会、佐伯先生が基調講演するんでしょ? 聞いてみたら? そもそも、仕事してるとこ、ちゃんと見たことあるの?」
「ないです。だって興味もなかったし」

 今もないし、と私は付け加えた。
 まぁ、他の先生を見ていてわかるけど、大学の先生と言うものは、授業やら講演やら、人前で話すことは多い。健一郎があのにやけきった顔で、人前で話していないか、それは多少心配ではある。
 森下先生は加えた。

「かっこいいわよー。私だって、三波ちゃんのことストーカーしてるの知らなかったら、うっかり惚れそうになってたわ」

 そんなこと初めて聞いた。驚いて森下先生の顔を見ると、森下先生は、ふふふ、と笑う。
 森下先生はとってもいい先生だけど、どうも男の趣味は良くないらしい。健一郎にうっかり惚れるなんて、うっかりにもほどがある。もし本当にそうなら、きっと目の病気だ。

「かっこいい……? とりあえず、眼科をお勧めします。眼科の新藤先生は腕がいいと聞きますよ」
「まったくもう。宝の持ち腐れだわ!」

 森下先生は不満そうに叫ぶ。
 でも、本当にかっこいいなんて、私は一度も思ったことは無いし、そう聞いても全く実感はない。健一郎がかっこいいとか、目が病気としか思えない。もし自分がそんなことを思ったら、たぶんすぐに病院にいくだろう。

 それにしても……ホント、不思議なほど健一郎に対する周りからの評価は高い。それは感じていた。そうでなければ、あの父が結婚を後押しするはずないし。
 健一郎のこと、別に仕事ができない人、だなんて思ってない。ただ、できる方ではないような気がする。いくらできると言われても、健一郎の仕事ぶりなんて見たことはないから、実感もないのだ。

(しかもそんなこと……今、実感したくない)

 そんな健一郎を見て、今の自分がどう感じるかなんて知りたくもないのだ。
 理由はよくわからないが、私の中に正体のわからない不安がよぎった。
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