きみはハリネズミ
『なーこ!』


名前を呼ばれて読んでいた本から顔を上げると、親友の優里香がぶつかるようにして私の体に抱きついた。


『どうしたの?嬉しそうじゃん』


優里香はふわふわとした猫っ毛を揺らしてコクリと頷いた。


『なこには一番はじめに話そうと思って…』


あのね、私ね。


そんな前置きをした優里香の頬は熟れた桃のようにほんのり赤く染まっていた。






好きな人ができたの。








耳元で囁かれた無声音の言葉は、まだ恋を知らない14歳の私にはソーダの泡が弾けるように瑞々しく、いつか祭りの屋台でねだったわたあめのような甘さを秘めていた。


耳まで真っ赤に染めた優里香はもう既に恋する乙女の顔をしていて、とても可愛らしかった。


『私の知ってる人?』


『実は西野なんだ』


優里香はそう言うと両手で顔を隠した。
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