無邪気な彼女の恋模様
集中すれば早いもので、山のような書類はいつの間にかあと少しになっていた。

「ねぇ。」

ふいに木村さんが声を発して、私は作業の手を止めて顔を上げる。

「何か元気ないけどどうかした?」

「いえ、そんなことは。」

木村さんは殊更心配そうな顔つきで私を見る。
何だか緊張してしまって、私はまた書類の方に視線を戻した。
静かな室内に、ホチキスのガチャンガチャンという音だけが響く。

「波多野と何かあった?」

その言葉に、私は思いきり体をびくつかせた。
心臓が勝手にドキドキと早くなる。

「百瀬さんが元気がないとワークルームも暗くなっちゃうな。」

「すみません。」

「俺でよければ話聞くよ。」

…と言われましても。
私は困って無言でホチキス留めの作業をする。
そんな私に、木村さんは更に追い討ちをかけた。

「もしかして女絡み?」

はっとなって、ホチキスがずれた。
動揺しているのが木村さんにバレないようにしたいのに、ざわざわした心をなかなか沈めることができない。

木村さんは何か知っているんだろうか?
そんな疑問が頭をよぎる。

「あいつ、まだ元カノのこと忘れられないのかな?」

ドキリと鼓動が胸を打ち、私は思わず聞いてしまった。

「どういうことですか?」
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