ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
視線を感じて顔を上げると、イザヤはスクリプカを弾きながら私を見つめていた。


泣いちゃダメよね。

私は慌ててまばたきを繰り返して涙を散らした。

でも、気づいてしまった。

スクリプカを弾いているイザヤ自身も涙を浮かべていることに。



共鳴している。

イザヤと、私と、スクリプカ……。



私は涙をグイッと拭いて、顔を上げた。

そして、自分ですっくと立ち上がり、トゥルバールガンとか言うパイプオルガンのもとへと向かった。


イザヤの曲が終わり、拍手喝采がおさまってから、私は一息ついて、ゆっくりと鍵盤をなぞった。


この楽器には合わないかもしれないけれど、美しい愛の歌を奏でた。

かつて、イザヤとティガとリタに、プロポーズだと勘違いされた弾き語りの曲。

大好きな愛の歌を、心を込めて弾いて、歌った。


今度は、ちゃんとイザヤへの想いを込めて。



without needing words,

without needing reasons,

we begin the same story together


言葉も、理由もいらない。

2人の物語を始めよう。

おとぎ話でも童話でもないけれど。

ハッピーエンドになるとも思えないけれど。

どんな結末でもいい。

永遠を始めよう。

2人で。



***


神殿を出ると、雪がちらちらと舞っていた。


イザヤが私に白い毛皮のケープを着させてくれてると、お姉さんが近づいてきた。


「あらためて、このかわいいヒトを紹介してくださる?」

「ええ。姉上。彼女はまいら。オースタ島の神殿に突如現れた異世界人です。」


……イザヤの説明に、少なからず私は傷ついた。

まるで動物か妖怪みたいじゃない?


「はじめまして。お姉さま。竹原(まいら)と申します。」


そうご挨拶すると、お姉さんは目を細めてうなずいた。


「よろしく。まいら。イザヤの相手は大変でしょう?……その鳥、ヒトの言葉を話せるの?」

「あ、はい。少しだけですが。この子の名前も、いざやなんです。すごい偶然ですよね。」

「まあ!」


お姉さんはきゃらきゃらと笑って、イザヤを肘でつついた。
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