ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「嫁より先に側室を迎えたと聞いて少し心配してたけど……いい子じゃないの。明るくて、ハキハキしてて。まともな会話もできない嫁とは大違い。」

「姉上。噂をすれば……」


イザヤの視線の先に、白い馬車がとまった。

すぐ横を併走していた黒い馬から、ひらりとドラコが降り立った。

馬車の中にはシーシアが居るのだろう。



「イザヤ。シーシアさまご一行をお連れした。王城へはそなたが先導してくれ。」

そう言って、ドラコはイザヤのお姉さんと私に会釈した。


「わかった。姉上。まいらとこやつを一緒に連れてやってくれ。」


イザヤが鳥の伊邪耶をお姉さんに託す。

「イザヤ。イザヤ。イザヤ。」

「まあ!イザヤ。この子、あなたを呼んでるわ。」


感嘆するお姉さんに、イザヤはニヤリと笑った。


「……かわいいでしょう?本当は、ひとときも離れたくないのですが……今日だけは、許せよ。」

最後は私に言ったらしい。


お姉さんの手前、文句はとても言えないので、私は気づかないふりをした。


ドラコの呆れた視線が痛かった。



***


お姉さんは馬車の中でも快活だった。

鳥の伊邪耶は、お姉さんに遊んでもらってうれしそうに飛び跳ねていた。



「嫁とは、もう会ったの?」

お姉さんは本当にシーシアが好きじゃないらしい。

声のトーンが明らかに低くなった。


「はい。」

「……会話できた?」


お姉さんの声に辛辣さを感じたので、私も率直に答えた。


「言葉を交わせば交わすほど相容れない、理解できないと思いました。善良すぎるのか、宗教が違うヒトって、こんなにも大変なのでしょうか。」

「あら。死んだ私の旦那も嫁と同じ宗教よ。でも寛容でウィットに富んでいたわ。個人の資質でしょ。嫁には感情が欠落してるのね。……イザヤは明るい子だから……まるで罰ゲームみたいな婚姻だわ。」


なるほど。

私もだけど、お姉さんもけっこうズケズケ言うヒトらしい。


「シーシアも、罰ゲームだと思ってるみたい。」



ふん!と、お姉さんは鼻を鳴らした。

「弟の何が不満なのかしらね。失礼しちゃうわ。」


さすがに苦笑を禁じ得なかった。

異教徒で、貴族とはいえ属国の貴族、しかも先祖代々の楽器道楽で借金まみれ。

それに加えて、イザヤ自身も誤解を受けやすいからなあ。


実際、私も、最初はイザヤのことを、見た目はいいけど、偉そうな嫌な奴と感じたっけ。

すぐに打ち解けたけど。
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