ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「……とても優しいかただと、わかってもらえるといいのですが……。」

遠慮がちにそう言ってみた。



「まあ、無理でしょ。」

身も蓋もないことを言ってから、お姉さんは、ほうっとため息をついた。


「本当に、結婚、ちゃんとできるのかしら……。」

「王城の晩餐会は問題ないでしょうけど……。」


後のことは、私には、何とも言えない。

言えるわけない。

経験もないし……さすがに儀式とは言え、イザヤが他の女と無事にセックスできるかどうかなんか、想像したくない。


……勉強したところによると、今回の婚姻は王族の儀式に準じるので……カーテン1枚向こうに重臣達が聞き耳を立て、スヴァートと呼ばれる介添人が性交と膣内射精の遂行を見届けて確認するのが慣例らしい。


初夜を監視されるとか、さすがにシーシアが気の毒だわ。

ナーヴァスになるのも仕方ないと思う。

思うけどさ……。




「私ね、うまくいかないと思うのよ。いえ、イザヤには何の問題もないのよ。あの嫁!プライド高いでしょ?……我慢できず、逃げちゃうんじゃないかしら。」


お姉さんの予想に軽々しく同調することも憚られて、私は困った顔で首を傾げて見せた。


それで、気づいてくれたらしい。

なんせ、私も処女なもんで……わかんないのよ、そのへんのこと。


「……やだ、私ったら。ごめんなさい。まいら。……でも、今夜だけ目をつぶってやってね。」

「はい。」

無理矢理、笑顔と明るい声を絞り出した。

けど、ぽろっと涙がこぼれて……後から後から、涙があふれて、滝のようになってしまった。


おねえさんは、同情してくださったらしい。

「大丈夫。大丈夫よ。まいら。The World is Yours.……明日からね。」


突然の英語に、驚いた。

明日からの世界は……私のもの……って、おっしゃってくださったのかな。


「ありがとうございます。……そろそろ、お時間ですね。参りましょうか。」

イザヤが見立ててくれたレースのいっぱいついた綺麗なハンカチで涙を拭って、すっくと立ち上がった。


「大丈夫?……晩餐会、欠席してもいいのよ?……2人を観てるのが、つらければ……」


お姉さんのいたわりに、私は今度こそ涙抜きの晴れやかな笑顔を見せた。


「行きます。イザヤに言われたんです。そばにいろ、って。イザヤだけ、観てろ、って。」




開場を知らせるベルマンがやって来た。




おままごとの結婚ごっこは終わり。

イザヤとシーシアは、本物の夫婦になる。



……今夜……。


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