ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「そう言えば、天気……変わらなかったね。」

王城からの帰路、馬車の中から雪のちらつく夜空を見上げて、私はそうつぶやいた。


「ええ。私も気になってました。シーシアさまは、もはや神の花嫁ではなく、イザヤどのに嫁がれるので、神通力がなくなったということでしょうか。」

ティガの解析に、私だけが、ふんふんと頷いた。


隣のリタも、前の席のドラコも、むっつりと黙ったまんまだ。



「ドラコ。前兆はありましたか?」

ティガにそう尋ねられ、渋々ドラコが口を開いた。


「ああ。お役目を返上されても、しばらくは神のお力を持続されていたのだが……婚礼の準備が始まってから、力がすっかり潜めてしまわれて、シーシアさまは、気の毒なほど、お気を落とされてしまった。」


うん。

まあ、わかるよ。


シーシアがどれだけこの婚姻を嫌がってるか、晩餐会でよくわかった。

披露宴の主役なのに、シーシアは死人のように青白い無表情で、食事にも手をつけず、身を小さくして座っていた。

隣の席で、イザヤは、花嫁を完全に無視して、酒と食事を平らげた。


あまりにもちぐはぐな新郎新婦を、みな気の毒そうに静かに眺めるしかなくて……。



「まるでお通夜。シーシアさまが、おいたわしくて……。イザヤどの、マジ、むかつく。シーシアさまに対して、もっと気を遣っていただかないと!自分ばっかし食事を楽しむとか、酷い!信じらんない!」

リタがため込んでいた不満を出し始めた。

ので、一応の釈明を試みた。

「……イザヤ、全然楽しんでなかったよ。いつぶち切れて、シーシアに怒らへんか……何度も、ハラハラしたわ。イザヤにしては、すごくがんばって、我慢してたんやけど。……あれでも。」


ますますリタに、睨まれてしまった。


「私も、イザヤどのは努力で体面を保たれたと評価いたします。……が、緊張する花嫁を一顧だにしないのは……先が思いやられますね。長い夜になりそうだ。」

ティガの言葉に、みんな押し黙ってしまった。


誰も、心からの祝福をしていない。

それどころか、この期に及んで、なお、こんな不幸な結婚なんかやめやてしまえばいい、と願っている。
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