ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
う……ごめん……。

肩身が狭いわ。



私は、リタの気に障らないように、なるべく控えめに言った。

「シーシアが心細くならはらへんようにしたげてね。なるべく早く帰るから。」


……まあ、シーシアは、イザヤ不在のほうが気楽だろうけど。



当たり障りのないことしか言わない私に、リタは愛想をつかしたようだ。

大仰に肩をすくめて見せてから、シーシアの部屋へと戻った。



***


「イザヤの馬鹿。イザヤのスケベ。イザヤの阿呆(あほう)。イザヤの馬鹿。イザヤのスケベ。イザヤの、」

「……いい加減にしないか。」



舟の上。

暇に任せて鳥の伊邪耶に向かって何度も同じ言葉を繰り返していると、イザヤが止めた。




鳥の伊邪耶はつぶらな黒目をパチパチとまばたき、私とイザヤの顔色をうかがっているようだ。


「アホウ……」

とだけ小さく繰り返し、私の手の中でパタパタと羽ばたき始めた。



「ダメ!危ないから。おとなしくしてて。」

慌てて私は伊邪耶が飛ばないように、ふんわりと覆った。


むやみに飛んで湖に落ちたら大変だ。




「大丈夫だ。それより、そやつに悪い言葉を覚えさせるのは、やめよ。かわいそうではないか。」

そう言って、イザヤはボートを漕ぐ手を止めて、右手を前に突き出した。


「おいで。」

優しい声でイザヤがそう言うと、鳥の伊邪耶がまた暴れ出した。


渋々、手をゆるめると、伊邪耶は這い出てきて、必死に羽ばたいた。



たぶんイザヤの肩まで飛びたかったのだろう……が、途中で力尽きたらしく、伊邪耶はイザヤの手首にべちょりと着地した。



「よしよし。よくきたな。賢いヤツだ。えらいぞ。」

とろけそうな笑顔でイザヤは鳥の伊邪耶に頬ずりした。



伊邪耶もまたうれしそうに目を細めた。




……む~。


愛鳥に焼き餅を焼くなんて、我ながら滑稽だと思う。


思うけど……やっぱり、なんか、こう……くやしい……。





私はそろそろと四つん這いで船底を移動して、イザヤの足許にたどり着いた。


「……私も……」

思わず口走ってしまったけれど、続きが出てこない。


頬ずりをおねだりするのって、かなりハードル高くない?




困ってる私を見下ろして、イザヤは右手を差し出した。


反射的にその腕に掴まった。

< 159 / 279 >

この作品をシェア

pagetop