ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「……頼むから、無理をしないでくれ。……心配で狂いそうだった。」


イザヤの言葉が、私の乾いた心に染み渡ってゆく。


ああ……私……やっぱり、このひとが、好きだ……。



「だって逢いたかったんやもん。」

涙が両の頬を伝って、イザヤの肩を濡らしてく。


……来て、よかった……。

心から、そう思った。



しばらくすると、遠くのほうで、ドンドンと玄関戸を叩く音がした。


「来たな。……もう少し、我慢してくれ。あやつらが去ったら、すぐ手当てしてやるからな。」

「ん……大丈夫。イザヤにだっこされてたら、なぁんも怖くない。……鳥のいざやは?元気?」


ドンドン!ドンドン!

ドンドンドン!


大きな音しか聞こえないけれど、たぶん呼び声もしてる。

見張りの兵士が、私が忍び込んだことに気づいたのだろうか。


屋敷の奥から、バタバタと足音が近づいて来た。


男の人の声がする。

少しの間、緊迫したような会話が聞こえていたけれど……兵士は私の姿を見たわけでも、血痕を見つけたわけでもなかったようだ。


物音がしたので、念のためにやって来たらしい。

朝になったら、ドラコに報告して、警備の兵士を増やすと脅しをかけて出て行った。



「……朝までに石垣と庭石の血痕、消さないと……。」

そう訴えたら、イザヤが力強くうなずいた。


「大丈夫だ。ミシルトどのが既に手筈しているだろう。……そなたは、とにかく怪我の手当だ。……顔も、手も、足も……本当に、どこも傷だらけではないか。かわいそうに。痛かろう。」


危険が去ったせいか、イザヤは普通の声で話してくれた。


やっと聞けた大好きな美声に、私の頬が緩んだ。

「がんばったもん。……ほんまに、めっちゃがんばってんで。イザヤの館からレアダンスモレン湖を舟で横断?縦断?……斜めに突っ切って、カピトーリへの水道を流れて来てん。せやし、街道も関所も通らんですんだし、山賊にも遭わへんかったよ。褒めて褒めて。」


イザヤの胸にしがみついて、私はそう訴えた。


苦笑して、イザヤは私の頭を撫でて、その後、頬に口づけた……というよりは、頬の切り傷をペロリと舐めた。

少し痛くて、無意識に首をすくめた。



イザヤは、私の両肩をがっしりと掴んだ。


「……本当に、そなたは……無茶ばかりして……。女一人で普通に街道を旅しても大変だというに……。」
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