ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「しかし、私は……違うのだ、まいら。私は、そなたと共にいたい。腹立ちはわかる。しかし、許してくれまいか。以前のように、そなたと、楽しく暮らしたいのだ。」


イザヤの訴えは悲痛だった。


でも、私の心には全く響かない。

水の中のように、くぐもってしか聞こえないみたい。



「ごめん。無理。しんどい。……今は、ほんとに、無理。……てか、奥さん、お姫さんなんでしょ?……私、毒盛られるんちゃう?」

「そんなことは絶対ない。私がそなたを守る。」


イザヤの言葉が、ただただ悲しい。


「……無理。」


空虚な否定に、イザヤはキレたらしい。


突然、私の両腕を強く掴んだ。

勢いあまって、鳥の伊邪耶がパタパタと飛び立ち、自分の鳥籠に戻った。


「私は、そなたをもう二度と手放したくない。……それがどうしてわからない?……わからせてやる。」


まるでモテない悪役みたいな陳腐なことを言って、イザヤは私を無理やりベッドに押し倒した。


イザヤの両の目から、ぽたぽたと涙がふってくる。



……わかってるよ。

充分過ぎるほど、わかってる。


でも、本当に、無理。

しんどいねん。


……たぶんこれは、私の問題。

待つことに疲れて、信じることを諦めてしまった。


ごめん。

イザヤ、ごめん。


大好き。

愛してる。


だから、苦しいの。


心がつらい分、身体は敏感に、貪欲に快感に溺れた。



イザヤは、今までより、ねちっこく、私を抱いた。


傷に配慮しながらも、全身を舐められ、吸われ……俺の物だと言わんばかりに痕を残された。

身体の奥の奥まで穿たれて、最奥に何度も注ぎ込まれた。


……私は、充足感に満たされた。


幸せだった……。



だから、もう、いいって、思い切れた。


***

「……気が済んだら、ティガに連絡して。」

名残惜しげなキスの雨から、敢えて顔をそらした。



イザヤは、子供のように意地になったらしい。


「嫌だ。……気など、生涯、済まぬ。」

「はいはい。つきあいきれんわ。奥さんに慰めてもらって。」


そう言って、イザヤの身体から逃れて半身を起こそうとした。


でもやっぱり傷が痛くて……。


「もう……やだ。身体中痛くてしょうがないのに。……はい、どいて。起こして。服、着せて。」


開き直ってそう指示したら、イザヤは真面目な顔になった。
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