ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
そう言ったら、イザヤが反応した。

「そなたのお母上どのは、優しいヒトなのだろうな。鳥のいざやの口真似がとても穏やかで、私も母上を思い出す。」

「……まあ、変なヒトだけど、おっとり穏やかなヒトやわ。」


するとイザヤは、ちょっと笑った。

「そなたも充分変だぞ。でもよかったな。お母上どのが変なヒトだから、まいらは自由にのびのび育ったのだろう。これからもそのままでいろ。」


……イザヤの言葉が、気持ちがあたたかいんだけど……

何だか、別れの言葉みたいで、すごく嫌。



「私が帰るまで、この館はまいらに預ける。皆にそう言っておく。頼んだぞ。」


イザヤ?

帰ってくるのよね?


不安が募る。



「オースタ島に行ってもいい?」


違う。

こんなことが聞きたいんじゃないのに。



「1人で?遭難しないか?私が帰館するまで待て。帰館したら、今度こそ休暇をもらえるはずだ。」


イザヤの言葉に、やっとちょっとホッとした。

少なくとも、イザヤは帰ってくるつもりだ。

大丈夫。



「わかった。待ってる。無事に戻ってきてね。」


そう言ったら、ぽろっと涙がこぼれた。


あとからあとから涙があふれてくる。



イザヤは食事中なのに立ち上がって、私の涙を拭きにきてくれた。


「……私は騎士だ。いつでも死ぬ覚悟はできている。……はずなのに、そなたに泣かれると、決心が鈍る。」

イザヤの言葉は、紛れもない真意だと伝わってきた。


「ごめんなさい。」

私は謝ってから、覚悟を決めて顔を上げた。

「待ってます。1日も早いお戻りを。」


そう言い直すと、イザヤはふっと微笑んでから、私の頭をなでた。

「それでいい。」


***


「食事はもういいか?では、行こうか。」

イザヤは早々に席を立った。


これから、どこへ行くのか、何をするのか、よくわからないまま、私はイザヤに従った。

まだ早いとは思いつつ、ドキドキのオトナな展開を多少期待した。


が、イザヤがエスコートしてくれたのは、いつものサロン。


……あー……やっぱり、そっちか……。

まあ……イザヤだもんね……。



「新しい楽器が手に入ったのだが、よくわからないのだ。」

そう言って、イザヤは大切そうに宝石箱のような木の箱を見せてくれた。


小さいな。


「たぶん笛のように吹くものだろうが……」


そう言いながらイザヤが取り出したのは、ハーモニカ!
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