策士な課長と秘めてる彼女
美味しい飲み物と言って、真佐子に出された飲み物には少しアルコールが入っていたのか、日葵の顔はほんのり赤くなり、頭もほんの少しだけぼんやりする気がしていた。

イングリッシュロップの毬ちゃんの話や柊の仕事について話をしているうちに、陽生の父・孝明が帰宅してくる。

「夜分にお邪魔しております」

そう言って立ち上がった日葵と、勇気の隣で伏せをして眠っている柊を見て、孝明は驚いた表情を見せたが、直ぐに笑顔を見せて

「いらっしゃい」

と言って笑ってくれた。

「まさか我が家のリビングに賢そうな犬と若い女性がいる状況を目の当たりにすることがあるとは思いもしなかったな」

孝明は背広の上着を真佐子に渡しながら、微笑んで言った。

陽生は母親似のようで、孝明は森の熊さんのようにホンワカとした雰囲気を持つ癒し系の男性だった。

「柊くんは警察犬なんですって。とても賢くて大人しくて、今日はゲージから逃げ出した毬ちゃんを見つけてくれたのよ」

あんなに毛嫌いしていた犬を誉めている妻を見て、孝明は心底驚いた様子だ。

「それでね、この女性は陽生さんの会社の部下で、蒼井日葵さんっていうのよ。毬ちゃんと一字違いなんて運命的だと思わない?しかも陽生さん、マンションのぼや騒ぎで今、日葵さんのお宅に居候させて頂いてるんですって」

浮かれた様子の真佐子の弾丸スピーチは止まらない。

「わかった、わかった。真佐子が嬉しいのはわかったから、早く勇気を部屋に連れていきなさい。寝てしまっているじゃないか」

「僕が連れていきますよ」

黙って様子を見ていた陽生が、柊の横で眠っている勇気を抱えあげた。

「ん・・・お兄さん?」

少年とはいえ、美形の兄弟のお姫様抱っこというシチュエーションは恋愛物(BLなのだが)に疎い日葵にもドキリとするものがあった。

「日葵さん、柊くん、また来てくれる?」

眠い目を擦りながら頼んでくる勇気の美しさが尊い。

「うん。約束する」

「絶対だよ?」

日葵は陽生に横抱きにされている勇気と指切りをすると、部屋を出ていく美しい兄弟を見送った。
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