策士な課長と秘めてる彼女
3年前、何を血迷ったか、陽生の母・真佐子がデパートのペットショップでイングリッシュロップの毬ちゃんを購入してきた。

まだ赤ちゃんだった毬ちゃんは、初めは両手のひらにのるサイズだった。

フワフワの柔らかい毛、大きな瞳。

陽生は動物の中では犬が一番好きだったが、なんせ母が大の犬嫌いだったために飼うことは叶わなかった。

遅くにできた次男、勇気の子育てに手一杯だった真佐子だったが、勇気が小学校に通い始めると一気に気が抜けたのか、可愛いペットが欲しいと言い出した。

泣かない、吠えない、噛まない、大人しい。

真佐子がうさぎを選んだのは必然なのだろう。

名前の通り、イギリス出身の毬ちゃんは、自分の名前や餌の時間を識別できる賢くて大人しい女の子だ(真佐子談)。

顔全体を覆う大きな垂れた耳。

黙々と餌を食べる姿は見ていて可愛いな、とは思うものの陽生はさして興味もなかった。

言い出したら聞かない母親だから、ペットを飼うと聞いた時も、勝手にすればいいと陽生は思っただけだった。

しかし、その直後の会社の入社式で、陽生は日葵との衝撃の出会いをし、毬ちゃんへの認識も変化していくこととなる。

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