大人の女に手を出さないで下さい



「エリちゃんにみんなでご飯食べようって誘っちゃった!行く行く!って喜ん出たよ〜」

「えー!もう!トミちゃんったらいつの間に!…仕方ないわね…」

トミちゃんに耳打ちされて驚いた梨香子は観念して渋々食事に行くことを承諾した。
トミちゃんと娘の英梨紗はメル友で梨香子の知らない間に連絡を取り合う仲なのだ。
ウキウキと嬉しそうに予約の電話をしている蒼士を余所に大事な娘と仲良さげなトミちゃんにヤキモチを妬いて面白くない梨香子は不貞腐れついつい口が尖る。

「予約しといたから、じゃあ、また後で」

電話を終え、にこやかに言って去っていく蒼士を見送ってるとトミちゃんはしたり顔で梨香子の顔を覗き込んでくる。

「蒼士くんってば!嬉しそうな顔しちゃってぇ!リカちゃんの事大好きよね~!」

「え~?ないない、こんなおばさんのどこに好きになる要素があるって言うのよ?」

「あんなにしつこく食事に誘われてるって言うのにまだそんなこと言ってんの?」

トミちゃんは呆れたとでも言うようにオーバーアクションで肩を竦める。
どんなに蒼士は梨香子の事が好きなのよと言っても梨香子は取り合ってくれなくてほとほと困る。

そうは言われても梨香子はどう考えたってこんな自分が好かれるなんて思えない。
なぜ自分が目を付けられたのかは分からないけど、大方、話しやすいからとかで興味本位でちょっかいかけてるに違いない。
梨香子の家でのぐうだらな姿や男勝りな本性を知ったら彼はすぐに引くはずだ。
若い子たちのように初心な心はもう持ち合わせていない。
可愛げない大人の女に手を出したって面白くもなんともないのだ。
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