大人の女に手を出さないで下さい
「蒼士は一人息子でわがままに育ててしまったようで我を押し通す奴でね、迷惑かけてませんか?」

「い、いーえ〜素敵な息子さんじゃないですか。もう店に来たらみんなに大人気で凄いですよ〜」

ことある毎言い寄られて困ってると言えば困ってるのだが、迷惑とまでは思ってない。
はっきり突っぱねてしまえばよかったのだろうが梨香子はそれをせず半分受け入れてしまったのだから文句なんて言えない。
敏明は蒼士の想い人が梨香子だと知っているのか梨香子にはわからないが変に心配かけたくないから知らなければいいなと思う。

「そうですか」

ホッとした様子の敏明は懐かしそうに目を細める。

「蒼士は初め証券会社に勤めていてね、仕事が面白くなってきたところに私が倒れてしまってね」

「あの時は私もびっくりしました…」

昨年、敏明は仕事中に倒れて入院したと知って梨香子は驚いた。
後から大きな病気ではなく過労だったと聞いてホッとしたものだ。
で、大事を取ってこの際だからと人間ドックも受け一週間入院することになったそうだ。
一度お見舞いに行くと元気そうで良かったと胸を撫で降ろしたものだ。
今は独り身ということもあって大変だろうからお手伝いを申し出ようとしたら長年お世話になってるお手伝いさんがいて梨香子の出る幕は無かったなと思い出す。


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