大人の女に手を出さないで下さい
「わかった?じゃあ話はおしまい。英梨紗が待ってるから帰るわね。送ってくれてありがと」

前のめりで固まっていた蒼士の頭をポンポンと叩いて梨香子はさっさと車から降りていった。

「梨香子さん!」

はっと我に返った蒼士は慌てて車から降りたが梨香子は振り向きもせずひらひらと手を振ってマンションに入っていってしまった。

その後ろ姿を呆然と見送ってしまった蒼士は、はあっとため息を吐き車にもたれかかった。
片手で顔を覆い天を仰ぐ。
今日は衝撃的なことがいくつもあって蒼士の心は忙しない。

梨香子の元夫は速水だということにまず驚き嫉妬した。しかも英梨紗と仲がいい。
速水は今でも梨香子を待ってるようで実の親子3人を目の前にして蒼士は胸が苦しかった。
4人での食事は息が詰まりそうで取り繕うのに必死で、しかも別れた原因が彼の浮気とは、梨香子がどれだけ傷付いたのか今さら気付いた。
だから蒼士の告白にも簡単に信じたりしないのだと漸く思い付く。

だけど、速水との復縁を心配していた蒼士の心を知ってか知らずか、梨香子は速水に気持ちは無いとはっきり言った。
それは、蒼士にしたら梨香子を好きなままでいいと言われてるようなもの。

色々と思うところはあるが最終的に行き着くところはやっぱり蒼士は梨香子が好きで、梨香子もそれを認めつつあるということだ。

「少しは期待していいのかな……」

なんとも言えない安堵感と嬉しさを噛み締めながら蒼士は星空を見つめた。
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