大人の女に手を出さないで下さい
食事をしながら速水と敏明は和やかに仕事の話をしている。
速水の役割について、重要な契約書の内容について、今の会社の問題点について…などなど。
蒼士は相槌を打つばかりで言葉少なに話を聞いていた。
さすがは弁護士、敏明の質問にも淀みなく答え、的確なアドバイスをくれる。
不動産とは切っても切れない相続関係の相談事を主に取り扱っていたというから我社には打ってつけの人材なのだろう。
梨香子のことが無ければ普通に尊敬し信頼も寄せていただろうが蒼士の気持ちは胡散臭さでいっぱいだった。
速水を疑念の目で見ていたのだろう。食事の終盤、速水は父の敏明が席を立ったのを見計らって蒼士に話しかけてきた。

「蒼士くん、私に聞きたいことがあるようだね?良かったらこの後少し付き合わないか?」

「…ええそうですね」

何もかも見透かされてるようで蒼士は面白くなかったが、何事も曖昧なのは嫌いだ。
この際はっきりさせようじゃないかと蒼士は意気込んだ。

敏明が戻ってくると何事も無かったように速水はまた話し出す。
そして、まさかここで梨香子の話題を振るとは思わなかった。

「そうそう、御社のプティビルに入っているテナントのエリッサの店長。実は私の元妻なんですよ」

「おや?国永さんかい?」

これは驚いたと敏明も目を丸くする。
蒼士は何を言いだすんだと速水を睨んだ。

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