大人の女に手を出さないで下さい
「国永さんが元妻とは、何故離婚を?いやいや、不躾だったかな」

敏明は酒が回っているのか赤ら顔で失礼な質問をする。速水は嫌な顔もせず穏やかな顔で酒を口にした。

「いえ、私の不徳の致すところで、仕事にかまけていたら愛想を尽かされまして」

浮気したからだろ?
そう突っ込んでやりたかったがグッと堪えた蒼士も御猪口に残っていた酒を一気に煽る。

「そうか、夫婦というものは何かとあるからね。私は愛想を尽かされる前に妻が亡くなってね…」

しんみり言う敏明を見て親父酔ってるな、と蒼士はやんわり飲もうとしてた酒を遠ざけた。
代わりに水を差しだすと敏明は何の抵抗も無くそれを飲み、そしてとんでもない事を言いだした。

「国永さんとはこの間年甲斐も無くデートしましてね、久々に楽しかった。とっても魅力あふれる素敵な女性だ、なのに離婚したなんてなんてもったいない。私が頂こうかな…」

「な!親父…!?」

父も梨香子に本気なのか!?と蒼士は目をひん剥き驚いてる様を、速水は興味深げに顎を触りながら見つめていた。

「ほう…そうですか。社長と…私の思い違いかな…?」

ハタ、と速水に見つめられてるのに気付いて蒼士は動揺を隠すのに必死だ。

「社長!酔ってますよ?変なこと言ってないでほら、帰りますよ!」

この場は退散するしかないと敏明の体を無理やり立たせようと引っ張るが敏明はそれを振り払った。

「変なことなんて言ってないぞ?蒼士、お前に大人な彼女は分不相応だ」

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