このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~

ぴくん!と肩が跳ねた。

顔を上げると、とろん、としたような切れ長の瞳と視線が重なった。


「お…、おはようございます…!…くすぐったい、ですか…?」

「あぁ。…百合のまつ毛は長いからな。近くでまばたきをされると、肌に触れてくすぐったい…」


しまった。至近距離で見つめていたのがバレた。


「すっ、すみません…!あの、決して変なことを考えていたわけでは…!」

「うん。…見るのは構わないが、今日は休日だろ?…まだ目ぇ閉じてろ…」


ぎゅう…、と背中にまわる彼の腕。すっぽりと包むように抱きこまれ、体が熱くなる。やがて、すやすやと寝息が聞こえた。もしかして、寝ぼけていたのだろうか?

そっ、と肌が触れ合う。暖を求めて擦り寄る猫のような彼の動きに胸が鳴った。


ーーこんな、幸せな休日はない。まだ朝日が昇ったばかりのような穏やかな日差しに、やがて私の意識もぼんやりと遠ざかっていったのだった。


ーーー
ーー



トントントン…


ふわり、と香る味噌汁の匂い。手慣れたような包丁とまな板が奏でる音に、はっ、と目が覚めた。

二度目の起床に時計を見ると、時刻は午前九時。隣に彼の姿はなかった。シーツにはわずかな温もりがあるが、私はある予感が頭をよぎり、そっ、とベッドから這い出る。

流石に服を着ないでうろつくわけにはいかず、手近な所に掛けてあった彼のシャツに袖を通す。


ーーキィ…


扉の向こうへ顔を覗かせると、シンプルなルームウェアでキッチンに立つ律さんと目が合った。


「…!起きたか。おはよう、百合。」

「おはようございます…」

< 119 / 168 >

この作品をシェア

pagetop