このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
思わず数秒動きを止めて見惚れる私に、きょとん、と首を傾げる彼。…と。その向こうに見えた光景に、私は、はっ!と我に返った。
ーー奥の襖越しに見えるのは、綺麗に整えられた“布団”。ご丁寧に二つ並べて敷かれている。
そんな私の視線に気が付いた律さんは、ふっ、と小さく笑った。
「さっき、敷きにきてくれたんだ。…おいで。夕食もそろそろ運ばれてくるだろうから。」
「は、はい…!」
とっさに身構えてしまった私にくすくすと笑う律さん。きっと、はしたない妄想が一瞬頭をよぎったことなんて彼にはお見通しなのだ。
ーーそうしているうちに、夕食のお膳を運びに来た旅館の女将さん達。テーブルに並ぶのは“山菜の天ぷら”や“お刺身”などの和食を中心とした料理の数々で、土鍋で炊いた白いご飯からは湯気が立ち上っている。
律さんと一緒に「いただきます。」と手を合わせ、天ぷらをひとくち口に運ぶと、ぶわっ!と海老の旨味が口の中いっぱいに広がった。プリプリな食感と衣のサクサク感が絶妙である。
ほっぺたを押さえて至福を味わう私に微笑む律さん。“幸せ”とは、まさに今、この瞬間だろう。こんなゆったりとした時間を二人で過ごせるなんて夢みたいだ。
やがて、他愛ない会話をしながら夕食を終え、片付けに来た女将さんたちへの挨拶が終わった頃。私たちは窓の外に浮かぶ月を見ながら、夜の晩酌を楽しんでいた。
お酒をセーブしながらそっ、と目の前の律さんを見上げると、ほろ酔いで色気がダダ漏れな彼と目が合う。
「…律さん。本当にありがとうございます。こんな素敵な旅行初めてです。…律さんが二日お休みを取れるなんて、思ってもみませんでした。」
「百合のためなら二日空けるなんてどうってことない。…いつか、百合と旅館に泊まりたいと思っていたからな。」