Q.I(きゅうあい)~短気で無垢で、天使な君を~

 その家族連れ三人は、園服に身を包みリュックを背負った小さい女の子を真ん中に手を繋ぎ、笑い合いながら仲睦まじく公園の前を通り過ぎていく。

 保育園の先生の話、今日した遊びの話、夕飯は何にするか──。

 微かに、そんな会話が耳に入ってきた。

 やがて女の子が父親に抱っこをせがみ、ひょいっと持ち上げられる。

 娘を嬉しそうに抱えるその人は、明らかに学校にいる時とは違う笑顔を浮かべていた。


「……………」


 柚葉は、そんな三人の光景を──野波先生を、ただただ見つめていた。


 そして三人が夕闇に消えていくと、柚葉は驚きのあまりしっかと握り締めていたバッグを、力が抜けたかのようにトンと地面に置く。

 もう草むらの陰に身を隠す必要もないと思い、俺は柚葉を近くのベンチに誘導した。

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