人生の続きを聖女として始めます
「子供を寄越せ!!」

黒ずくめの男の一人が、レーヴェに向かって手を伸ばす。

「………い、いやよ!!……ダメ!どうして!?やめて!レーヴェに触らないでっ!」

咄嗟に抱き抱えた私のその背を、男は容赦なく切りつけた。
鈍い痛みが走り、次に焼けるような激しい痛みが襲う。
傷口からの出血は酷く、階段を真っ赤に染め上げた。
でもそんなこと気にしていられない。
傷の痛みよりも何よりも、レーヴェを奪われることの方が何倍も辛い。
私はレーヴェに覆い被さり男達の手から守ろうとしたが、すごい力で髪を引っ張られ、階段下に落とされた。

(やめて、レーヴェを連れて行かないで!)

その悲痛な叫びは声にならなかった。
階段を転がり落ちるたび私の傷口は広がって激痛が走り、更に頭を強打し一瞬意識が飛んだ。

「う………レ……ヴェ……レーヴェ……」

大量出血のため意識は朦朧としていた。
でも、どこからか聞こえてくるレーヴェの激しい泣き声を頼りに、その方角に必死に手を伸ばす。

「レーヴェ……!!どこ……?」

やがて泣き声は遠ざかり、手探りで探しても……もうどこにもレーヴェはいなかった。

どうして……こんなことになったの?
私達が何か悪いことをしたの?
ああ、神様どうか……レーヴェをお守り下さい。
心ない者達が、無垢なレーヴェに危害を加えませんよう……。

「……あぁ……彼に……レグ……ル……ス……」

その続きは言葉にならなかった。
ごめんなさい、レグルス様。
私、レーヴェを守れなかった……ごめんなさい……ごめん………
流れる涙と血が混じって酷く生臭い匂いがする。
だけど、それを感じなくなるまで長い時間はかからなかった。
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