人生の続きを聖女として始めます
レグルス様が去ったその日、ラ・ロイエ周辺にはおかしな風が吹いていた。
生暖かく、どこか不穏な空気を纏った風は子爵邸の中をどんよりとした雰囲気にし、レーヴェの機嫌も悪い。
その状態は結局夜まで続き、いつもは素直に寝てくれるレーヴェが、今日だけはやけに夜泣きをした。

真夜中過ぎに、一度泣き止んだレーヴェがまた激しく泣いた。
仮眠をとっていた私はいそいそ起きあがり、レーヴェを抱き上げるといつもの子守り歌をうたう。
普段はこれで泣き止むのだけど、今夜の夜泣きは手強かったので、更に抱っこをしながら部屋を歩く。
すると、ふと見下ろした窓の外に夥しい松明が見えた。

「お嬢様!!お嬢様!!」

扉の外から、デュマの焦った叫び声が聞こえた。
そのとても切迫した声にレーヴェが反応し、泣き声がより一層酷くなった。

「どうしたの!?外に誰か来てるの!?」

デュマはもうノックもせずに扉を開けた。

「説明している暇がありません!急いで裏口から逃げて下さい!旦那様が時間を稼いでくれておりますので!!」

「デュマ!?一体……」

「早く!!」

デュマは私の腕を掴み、猛然と階段を降りようとした。
だけど、階段の下には黒ずくめの衣装を纏った集団が、武器を構えて立ち塞がっていて、私達は中腹で足を止めざるをえなかった。

「くそっ……お嬢様!もう一度上に……ぐうっ!」

デュマは私を庇うように階段上に押し上げたが、その瞬間前屈みになり、そのまま倒れ込んでしまった。
倒れたその背中には、深々とナイフが突き立てられている。

「デュマ……デュマーー!!!」

屈み込もうとした私は、一気に上ってきた男たちに肩を掴まれ、階段の壁に叩きつけられた。
腕の中にいたレーヴェを守るために、自分に対する防御は出来ない。
思い切り打ち付けた後頭部からは一筋、血が流れて落ちた。
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