人生の続きを聖女として始めます
だが、そんな愚かなビクトリアを利用したことを後悔した。
聖女を前にして、オレは自分のしていることが途端に恥ずかしくなったんだ。
何故かは全くわからない。
濁りのない黒い瞳が全てを見透かしているような……そんな風に思えた。
今、聖女の澄んだ瞳に映っているのは、ビクトリアがオレに纏わりつく姿だ。
これを見て、聖女はどう思うだろうか?
きっと自分は必要とはされていない、邪魔者だと思うんだろう。
そして、オレがビクトリアと寝所を共にしている、さらに愛していると勘違いをするはずだ。
それに気付いたら、もう芝居を続ける気が失せた。
作戦成功で良かったじゃないか?
と思う自分はどんどん侵食され、どうにかしてこの誤解を解かなくてはならないと思う自分が大半を占めた。
まるで、浮気を取り繕う男だな……。
そう揶揄ってみても、何もいい案は浮かばず、言葉も出なかった。

「ガブリエラ様の言う通り、レーヴェ殿下は聖女様に懐いておられるな」

ドレイクがオレの思考を遮った。

「ああ。それに、エスコルピオだ。あれはどうしたことだ?殿下を助けるというよりは、聖女を助けていたよな?」

ロシュがドレイクに返す。

「正に。獅子王陛下。エスコルピオを呼びますか?」

「………ん、ああ。うん。いや……後でオレが出向く。命令違反の件を問いたださなくてはな……」

オレは考えていたことを一度頭の隅に追いやり、執務室の扉を開けた。
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