人生の続きを聖女として始めます

輝き(獅子王)

見上げた窓からは月が天空の中央に輝いている。
溜まっていた仕事を粗方片付けると、オレは執務室を後にした。
王宮中央から南館への道程は近いはずだが、今夜は何故か遠い気がしていた。
階段を降り、ランプで煌々と照らされた廊下を歩いて行くと、やがて中庭に出る。
月の光が鮮やかに木々を染めるのを横目で見ながら、レーヴェの部屋のある南館へと辿り着いた。
階段を登り3階へと到達すると、レーヴェの部屋の前にエスコルピオが立っている。
どこから気付いていたのか知らないが、彼はオレが廊下を曲がってからずっとこちらを見ていた。

「エスコルピオ……話がある」

オレ達は目を逸らすことなく部屋の前で対峙した。

「はい」

然程驚きもせず、エスコルピオはまっすぐにこちらを凝視する。

「聖女を殺せと命じたはずだが?」

「はい」

「お前が命令違反とは珍しい……理由はあるのか?」

「ございます」

エスコルピオは凛と言い放つ。

「それは、何だ?どういう理由だ?」

「………うまく説明出来ません」

ここで初めてエスコルピオが言い淀んだ。
彼は一瞬部屋の中を気にし、扉に掌を押し当ててゆるゆると首を振る。
感情の見えない鉄仮面を付けているのに、今のエスコルピオからは感情がだだ漏れだ。

「わかる範囲でいい」

オレは言った。
もう責めるつもりはない。
ただ、何か理由が知りたかった。
粛々と獅子王の命に従ってきたエスコルピオが、何故ここで背いたのかを。
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