人生の続きを聖女として始めます
廊下の窓に差し込む月の光が、エスコルピオの仮面に当たり、その顔を露にした。
いつも怒りを宿している仮面が、今日はやけに幸せそうに見える。
その理由がオレには見当もつかなかった。
エスコルピオの言うように、オレはオレの感覚で聖女を測らなければ、その気持ちはわからないということなのか。
だが、聖女がオレの願いを阻む存在だということに変わりはない。

「……処刑など、馬鹿馬鹿しい。バートラムを処断したら、次は世界を滅してやるのだからな」

そうだ。
この世界は、失くなるべきなのだ。
理不尽で無慈悲な世界などこの手で破壊してやると、あの日誓ったのだから。
エスコルピオは、吐き捨てるように言ったオレを見て一瞬瞳を伏せた。
そして、レーヴェの部屋を見て言った。

「陛下が、誰か他の者に命じてジュリ様の命を狙うのであれば、私は彼女を全力で守ります」

「わかった、それがお前の答えだな」

「はい」

オレ達は静かに睨み合いを続け、やがてどちらからともなく背を向けた。
元来た道を帰りながら、エスコルピオの言ったことを考えてみる。
彼の守るべき存在は、レーヴェとオレの他にこの世には誰もいないはずだ。
そうこの世には……。
だが、エスコルピオの目にはかつてない輝きがあった。
それは、昔オレも持っていたもので、今は失ったもの。

空を仰ぐと、ちょうど月が雲に隠れた。
その様子が自分の心の中を表しているようで、オレは深く溜め息をついた。
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