嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
後ろから手を引かれ、私は行き場を阻まれる。


「男には、力じゃ敵わない」


非難するような声。
セクハラ年配客を前にして、体が動かなくなったことを咎めるような言い方だった。

セクハラなんて初めてだったし、なにより今まで弟以外の男の人に触れたこともない。

けど、たしかに、私がもっとちゃんと毅然とした態度で対応するべきだった。ただ、足をすくめて及び腰になっていないで。

ちゃんと、こんな風に。


「は、離してください……っ!」


私は振り向くと、喉ばかりではなく全身に力を入れて大声で言った。
掴まれた手をぶんぶんと左右に振って、力任せに振りほどく。


「送ってくださりありがとうございます! 失礼しますっ……!」


私は逃げるように駅の構内に走り去った。

曲がり角でちょっとだけ振り向いて見たとき、目の端に映った櫻葉社長はにっと口角を上げ、堪えるように笑っていた。




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