嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「もちろん、そのつもりだけど」


なにをそんなに驚いているのか、全くもって理解できないといった表情で、薫社長は目を瞬かせる。


「なにか問題でも?」
「い、いえ。問題と言いますか、その、あまり接触しないで、干渉せずに生活すると思っていましたので……」
「それだとダメなんだ」
「へ?」
「外でボロが出るだろ?」


ボロ? と復唱して、私は薫社長をキョトンと見上げた。


「俺たちの結婚が契約だと他人にバレたらマズい。法に触れる恐れだってある。だから例えコンシェルジュの前でも、他人行儀にされては困る」


諭すよう口調で言われ、私は閉口する。
たしかに、偽装結婚で逮捕された、なんてニュースを見たことがある。


「き、気が抜けないですね」
「ああ。慣れるためにほら、早く出かけよう」
「え、ちょっと待っ」
「なにが食べたい?」
「えっ!」


た、食べたいもの……?
急に聞かれても困る。

キョロキョロと宙を仰いだりしていた私の目に、ピカピカのシステムキッチンが映った。


「あの……もし良かったら、ここで作ってもいいですか? こんなに広くて使い勝手が良さそうなキッチン、初めて見たので……」
「え? ここで?」


釈然としないような声で言い、薫社長は私の目線をたどるようにしてキッチンを見た。


「はい、私、キッチンが好きで。空間とか、アイテムを見るのもとかもすごく好きで、それで食器用洗剤やキッチンのお掃除用品を広く取り扱っている櫻葉に入社したほどですから」


子どもの頃からキッチンは、お母さんとの触れ合いの場だった。

忙しいお母さんが家にいる時間はほぼキッチンに立ってご飯を作ってくれてて、今日学校であったことえお話して、いつも賑やかで温かい空気に包まれていた。

風太が来てからはお父さんが闘病してたこともあって私が料理することが多くなり、より一層キッチンにいる時間が長くなった。
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