嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「そのことは先日、長瀬さんから聞きました。母には私から伝えておきますので」
「頼むよ。寝室の件も、出張から戻ったらにしよう。入籍も早いうちにしたいと思っ……」
「寝室の件?」


言い終える前に言葉を遮った私を、薫社長は不思議そうな表情で見た。


「ああ。俺たちが寝室を一緒にする件だよ」
「一緒⁉︎ き、聞いてません、けど……」
「? 聞いてないもなにも、結婚するんだから一緒にするのが当然だろ?」
「ええ……っ?」
「子作りも、契約のうちだよ」
「こづ……⁉︎」


あまりにパワーワードすぎて、声にならなかった。


「で、でででもこれって、契約結婚ですよね⁉︎ 当然とかいきなり言われても、そもそも契約結婚な時点で常識から外れてますし……!」


黒目をぐるぐる回し、沸騰したように顔面を真っ赤にさせる私を見て、薫社長は徐々に渋面を作る。


「長瀬が渡した契約書、目を通していないのか?」


私の反応から察した薫社長は、呆れを滲ませた目つきで、渋々といった風に硬直する私に説明をする。


「櫻葉グループを築き上げた祖父の遺言なんだ。兄弟のうちで最初に後継者を産んだものにグループのトップの座を継承してもらう、と。親父が元気なうちになんとしても社内の対抗勢力を牽制し、同族経営を守らなくてはならないからね。俺は兄とは少々意見が対立している部分があるから、足並みを揃えるような回りくどいことはせず、とにかくこの結婚を成功させてトップとしてグループを統率することに全身全霊を懸けている。だから君もこの契約結婚に合意したのなら、協力してもらわないと困る」


口も挟めずに長々語られた薫社長の契約内容は、庶民にはまったくもって理解できない世界だった。

私はフラフラと覚束ない足取りで自室に戻り、タンスの上に置いてあった、長瀬さんに渡されたシンプルな封筒を手に取った。

そして、中に入っていた契約書に目を通す。


「……(中略)……三ヶ月以内に妊娠した場合はボーナスとして……? は?」


私は軽く卒倒した。
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