嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
私は当面、総務部の仕事を続けることになっている。その方が社内恋愛という設定に真実味がでるから、という理由だった。

櫻葉グループの御曹司・櫻葉薫が近々婚約発表をするというニュースは、あっという間に世間に流布された。
早く薫社長の結婚を周知させるため、長瀬さんが噂を流したんだと思う。

今度の周年記念パーティーに婚約者をお披露目するらしい、という噂から相手探しが始まり、寝耳に水なシンデレラストーリーが誕生した。
噂は光の速さで広まり、先輩も後輩も厳しかった上司たちでさえ腫れ物を扱うような態度になった。

そんななか意外にも好意的な反応が多かったのは、薫社長の人間性が評価されているからかもしれない。

一見華やかなイメージの薫社長だけど、仕事熱心でこれまであまり浮いた噂もなかったお陰で、決まったお相手がいらっしゃったのね、という大らかな反応に繋がったのではないかと察する。

これが契約結婚だとは、周りには疑われていないようだった。

契約、といえば……。


『子作りも、契約のうちだよ』


仕事中も食事中も眠っているときも、この言葉に私の頭は占拠されている。

私は契約結婚には同意したけど、跡継ぎを産むことまでは知らされていなかったんだから、それは無効だと訴えてもいいはずだ。

そもそも副業してた私が悪いけど、〝落としどころ〟って双方納得して見つけるものなはずだから、家族を救ってくれたことには感謝してるけど、私の意見も聞き入れてくれてもいいんじゃ……。

などと模索している間に、ついにこの日がやってきた。


「き、緊張する……っ」


築四十年の古びたアパートの前に、高級外車が停まった。
すごく場違いな光景だ。
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