嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
グレーのすごくシンプルな、装飾のなにもないワンピースを着ているのに、透明感のある素肌と黒くて長い髪の毛がとても綺麗で、人目を引く美しさがあった。

実際ふたりの周囲には人集りができていて、彼女を薫さんの婚約者だと勘違いし、「お似合いだね」などと声を潜めて噂する招待客まで現れたほど。

あの美しい女性が、薫さんの幼なじみ……?


「彩月の父上がお亡くなりになってから、経営が傾いてるって聞いてたけど、元気そうで良かった」


ふたりを見つめる芳樹社長は、懐かしそうに目を細める。


「元々親同士が仲良くてね、年が近い薫と彩月が将来一緒になったらいいのに、
なんて話してたんだ。でも俺がちょっと、先に口説いちゃってね」
「え……」
「だから薫は俺をずっと、俺のこと恨んでるんだな。彩月を傷つけたから」


それって……。
ふたりはただの幼なじみじゃなくて、許嫁だったってこと?


『薫、まだ怒ってんの?』


櫻葉邸に行ったとき、芳樹社長が言ってたのは、彩月さんのことなんだ。


『なんだよ……あれは昔のことだろ』


兄弟の確執の謎が解けたけれど、私の心は晴れやかになるどころか余計、雨雲に覆われたように暗く重くなる。


「あいつさ、女っ気ないだろ? 忘れらんないのかもな。今回の共同事業も、きっと彩月を助けたいんだろうし」


シャンパングラスを口元に運んで、溜め息交じりで芳樹社長が言った。

忘れられない彼女のファームで、新しい柔軟剤の匂いの元となる精油を作るってことだよね?
懐かしい匂いではなく、新しい匂いを。
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