嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「え、あの……じゃあ、最初から? 私が副業してるのを知ってたってことですよね?」


あまりのあっさりさに拍子抜けし、間抜けな声で私は聞いた。
肩に乗っていた重石のような緊張感が一気に雪崩れ、脱力する。


「そうです。別に隠していたわけではありませんが、当初から契約していただける女性を探していました。社内事情が他社に漏れるのは望ましくありませんから、なるべく社内で、ということで」
「はあ……。それで、私に白羽の矢が?」
「茅部さんの場合、親の借金という懸念材料がありましたので、出過ぎた真似かと思いましたがそういったご事情が世間の目に触れると櫻葉の社名に傷がつくのではないかと申し上げました」


悪びれる様子など毛頭ない、ごく当然のことのように長瀬さんは話した。


「しかし社長が、債務整理を行い借金は早急に工面すれば傷は浅く済むし、会社のトップに立てばもっと大きな富を得ることが可能だから問題ないと」


最初から、全部決まってた筋書き。
私はそれに翻弄されながら、周りを騙してきたんだ。


「……それなら、私じゃなくても良かったんじゃないですか? 弱味なんて握らなくても、社長と結婚したい女子社員なんて山ほどいると思います」
「そうですね。ですが、契約の条件として子孫を残すという項目がありますから、健康体で身持ちの堅い方が好都合です」
「み、身持ち……? え、えっと、」


それはつまり、よくわからないけど異性関係があまり派手じゃない方が良かったってこと?
その方が過去のトラブルとかもないだろうし、条件的に合ってるって……?

そこまで考慮してたんだ……。


『まあ、なんとしてもこの結婚を成功させる必要があるから、気は抜けないんだよ』


薫さんの声が頭の奥で響く。
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