嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
言葉を失う私に、長瀬さんが追い打ちをかける。


「職務態度などについても総務部の部長からリサーチしました。副業をしていたことを除けば大変真面目な性格で、むしろ終業後にバイトをするということは体力的には申し分なく健康だという証かと」


なんだか気が遠くなってくる。

頭が重くて、グラグラする。
周囲が回っているように錯覚する。


「な、なんか、いい気はしないですね、そういうのって」
「なにをそんなに気にしてるんですか?」
「へ?」


それまでの説明口調とは打って変わり、フランクな物言いに私は驚いた。


「就職にだって身辺調査はつきものです。契約なんですから」


長瀬さんは、笑っていなかった。
真面目な顔つきで私を見ている。

私は最初から、本当にただの都合のいい女だったんだ。
その当然の事実に今更ショックを受けるなんて、甚だ滑稽だ、とでも言いたげに。

そのとき、トントントン、とやや速いリズムで部屋のドアがノックされた。
すぐそばに立っていた長瀬さんがドアを開ける。

私は緩慢な速度でそちらを見た。


「一華、さっきは大丈夫だった?」


足早に駆け寄ってきた薫さんは、虚ろな表情の私を心配そうに覗き込む。


「着替えたの? ドレスは?」
「……」
「一華?」
「ああ、ええと……ドレスは」


目の焦点が合わない私の視界を、不思議そうに薫さんが覆った。


「疲れた? さ、こっちに座って」


腰に手を回し、室内のソファにエスコートする。
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