嘘つきな恋人
「椿兄さん、しばらくは日本に…?」
四歳年上の兄は、医大をストレートで合格後、
大学病院でメキメキとその腕を磨いた。
手術の腕前も、判断力も、患者からの評判も、
まさに外科医になる為に産まれてきたかのように
それはとても、素晴らしかった。
その功績が讃えられ、二年前にカナダの
トロント大学病院へと留学していたのだ。
椿兄さんが籍を置いている大学病院の
看護学校に通っていた私の耳には
聞かなくたって椿兄さんの華々しい噂話が聞こえた。
椿兄さんとは血が繋がらない。
私が産まれる前、
この家に「養子」としてやってきた。
未婚のままに出産し、一人で椿兄さんを
育てていた母の妹が突然の事故で亡くなった。
一人になった椿兄さんを父と母は喜んで引き取った。
病気のせいで
子供は望めないかもしれなかったからだ。
椿兄さんと実は「いとこ同士」だという事を
知ったのは割と記憶に新しい。
戸籍謄本でそれを知ったけれど、
椿兄さんには確かめる事が出来なかった。
父に、知らなかったその事実を聞いたのだ。