溺愛アフロディーテ 地中海の風に抱かれて
第4章 サレルノの葛藤
 ホテル『サレルノ・ルミニオネ・スイート』にはアマンダが手配してくれた部屋が用意されていた。

 レストラン、会議室、ジムといった共用設備のある中央の建物から客室の連なる三階建ての両翼がのびた形のホテルで、壁の石材に浮き出た大きなアンモナイトの化石が不思議な雰囲気を放っていた。

 大里選手は受付係員と気さくに会話しながら、私のチェックイン手続きを代わりにやってくれた。

 カードキーをもらってエレベーターに乗り込む。

「俺の部屋に来てもいいんだぞ」

「いえ、結構です。自分の部屋がありますから」

「プレジデンシャル・スイートだから寝室が三つもある」

「無駄ですね。部屋を移ったらどうですか」

「君の部屋に?」

 同じ空気を吸うのも嫌で本当に息を止めた。

 気のせいだろうけど、エレベーターがなかなか到着しない。

 三階に到着してようやくドアが開いてほっとする。

 一緒に長い廊下を歩く。

 大里選手の部屋は私の隣だった。

「じゃ、明日を楽しみにしていてくれ」

 彼はあっさり自分の部屋に入っていった。

 ずいぶんドアとドアの間隔が遠い。

 私も自分の部屋に入ってみて、ようやく理解できた。

 入ってすぐは広いリビングで、それだけでも二十畳ぐらいはありそうなのに、寝室が二つとそれぞれにバスルームがついている。

 このホテルは全室スイートの客室で構成された超高級ホテルだったのだ。

 だから隣のドアが遠かったのか。

 寝室のベッドはミケーレの別荘の物ほどではなかったけど、明らかに大きなサイズで、やっぱり私が横向きに寝ても大丈夫なくらい広かった。

 部屋をひととおり見て回ってから、私は軽い失望を感じていた。

 結局、ミケーレの手の内にいる間は、こういった豪華な違和感から逃れることはできないのだろう。

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