青く薫る





 翌日、センターの3人と、昨日ボイコットすると言っていた数名はレッスン場に顔を見せなかった。

「君たちが考えてることはわかるけど、私は切り捨てていいと任されているからね。大切なものがなんなのか、よく考えて。1年で先輩面するようなみっともないプライドなんかこの世界じゃ邪魔なだけよ、そういう世界なの」

 振付師の高梨さんが呆れた顔であたしたちに宣言した。ハッキリ、「切り捨てる」と。レッスン前でまだひとつも動いてないのに、それを聞いたみんなが顔を真っ赤にして汗をかいてる。あたしも、嫌な汗で首筋がべとつくのを感じた。

「蹴落とされたら地を這ってでも、泥の中に埋まっても、這いあがるチャンスを狙って踏ん張るのよ。……ったくもう。こんなの親切に教えてくれる人なんて誰もいないんだからね。でも私も同じような思いしてきたから、君たちを応援したい。新しく入った子はきっと君たちをこの世界の頂点まで導いてくれる。会ったら絶対に納得する。だから今は歯を食いしばって」

 高梨さんは、言葉よりうんと優しかった。あたしたちは当然まだ納得なんて出来なかったけど、その気持ちに応えようと一斉に声の限り「ハイ!」と叫んだ。

 それから数日後のこと。

「マズいよ、由衣たちがボイコットしてること、もうSNSで回ってる」
「いくら何でも早すぎじゃない? 誰かが流してるってこと?」
「……違う。見てこれ」

 SNSに、週刊誌の記事が載ってた。『異例の緊急大抜擢! 檸檬デビュー曲のセンターは中学生!』。それを見た瞬間、心臓が爆発しそうなほどに激しく鼓動して、耳の下がずきずき痛みだした。

「クソマスゴミ! どっから嗅ぎつけんだよっ!」
「まあこれだって身内から流れたことかもしんなくない?」
「むしろ運営が宣伝になるって魂胆でやってるのかもよ」
「あー、もう何も信じられない!」

 ふいに、高梨さんが言った「そういう世界なの」って言葉を思い出した。あたしたちが飛び込んだ世界は、こういう世界なんだ……。


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