番外編 溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を
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あれから十数年が経った。
連れてこられたのは小さな街にある花屋だった。
緊張する気持ちを、落ち着かせるために深く深呼吸を何回もした。
それから、木製のドアを開ける。
すると、ドアについていたベルがカランカランと鳴った。その店に入ると、爽やかな花の香りがした。そして、綺麗に並べられた花が出迎えてくれた。
「いらっしゃいませ」
懐かしい声が聞こえた。
最近はなかなか会えなかった人の声だ。
大切な人の優しい声。
「少しお待ちくださ………」
店内の奥から出てきた彼女は、柔らかい雰囲気と微笑みは変わらなかった。
そして、こちらを見た彼女の顔が、驚きの表情に変わり、そしてそれもまたすぐに泣き顔に変わってしまった。
「お久しぶりです、花霞さん」
「………蛍くん………」
彼女は駆け寄り、蛍を強く強く抱きしめてくれた。そして、大粒の涙を流してくれた。
顔を見てすぐにわかってくれただけでも嬉しいのに、彼女は再会したことを、涙を流して喜んでくれた。
それが嬉しくて、蛍は困った表情を浮かべながらも微笑んでしまう。
後ろから蛍をここまで連れてきてくれた、花霞の夫である椋が、歩いてきて花霞を慰めてくれていた。
「花霞さん。前に約束した事、覚えてますか?」
「えぇ、もちろん。一緒にブーケを作りましょう」
「はい………」
蛍は花霞と共にブーケを作った。
この店にある花の名前や花言葉は全て覚えており、花霞は驚きながらもとても喜んでくれた。
白い花で作ったブーケを、蛍はジッと見つめた。
この花はあの人に届くだろうか。
話したいこと、伝えたい事がたくさんあるのだ。
少し恥ずかしい気持ちと、不安な気持ちがある。けれど、大丈夫。
この2人が居てくれる。
蛍は、花霞と椋と共に高台にいる彼の元へと向かった。
その時、風がラベンダーの香りを運んできたのを3人は感じていた。
(おしまい)