番外編 溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を







   ★☆★




 あれから十数年が経った。
 連れてこられたのは小さな街にある花屋だった。
 緊張する気持ちを、落ち着かせるために深く深呼吸を何回もした。

 それから、木製のドアを開ける。
 すると、ドアについていたベルがカランカランと鳴った。その店に入ると、爽やかな花の香りがした。そして、綺麗に並べられた花が出迎えてくれた。


 「いらっしゃいませ」


 懐かしい声が聞こえた。
 最近はなかなか会えなかった人の声だ。
 大切な人の優しい声。



 「少しお待ちくださ………」


 店内の奥から出てきた彼女は、柔らかい雰囲気と微笑みは変わらなかった。
 そして、こちらを見た彼女の顔が、驚きの表情に変わり、そしてそれもまたすぐに泣き顔に変わってしまった。


 「お久しぶりです、花霞さん」
 「………蛍くん………」


 彼女は駆け寄り、蛍を強く強く抱きしめてくれた。そして、大粒の涙を流してくれた。
 顔を見てすぐにわかってくれただけでも嬉しいのに、彼女は再会したことを、涙を流して喜んでくれた。

 それが嬉しくて、蛍は困った表情を浮かべながらも微笑んでしまう。
 後ろから蛍をここまで連れてきてくれた、花霞の夫である椋が、歩いてきて花霞を慰めてくれていた。


 「花霞さん。前に約束した事、覚えてますか?」
 「えぇ、もちろん。一緒にブーケを作りましょう」
 「はい………」


 蛍は花霞と共にブーケを作った。
 この店にある花の名前や花言葉は全て覚えており、花霞は驚きながらもとても喜んでくれた。

 白い花で作ったブーケを、蛍はジッと見つめた。
 この花はあの人に届くだろうか。
 話したいこと、伝えたい事がたくさんあるのだ。

 少し恥ずかしい気持ちと、不安な気持ちがある。けれど、大丈夫。

 この2人が居てくれる。

 蛍は、花霞と椋と共に高台にいる彼の元へと向かった。

 その時、風がラベンダーの香りを運んできたのを3人は感じていた。




             (おしまい)

 
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