若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
中にあるのは、夕翔の好きな炭酸水だけだ。万が一お腹が空いた時のために、冷凍庫には温めれば食べられるピザやパスタがある。

妻の役になる時用の服は、クローゼットに残した。
アパートで妻に変身することはできないから、ここに戻って着替えればいい。時々、平日の昼間に来て、風を通そう。

多分もう、夕翔はここに来ないだろうと思った。

自分がいなければ、彼も本当の自分の家に帰るのだろう。

――そういえば、夕翔さんの家がどこなのか、私知らないんだなぁ。
そんなことを考えて、向葵は力なくクスッと笑う。


マンションを出ると、自分の部屋を見上げて、向葵は心の中で呟いた。

シンデレラごっこの、ままごと夫婦。

――ありがとう夕翔さん。私、本当に楽しかった。
肩を揉んであげられてうれしかった。
おはようのキスも、ただいまのキスも、本当に幸せだった。優しく抱いてくれて、くっついて寝てくれて、ありがとう。

辛くないわけじゃない。
でも耐えることには自信がある。
だから大丈夫。

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