若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)

夕方。
ホテルでのディナーに備えドレスアップした向葵は鏡の前に立って念入りにチェックする。

襟元が緩いカーブを描く濃紺のワンピースにキラリと輝くブローチ。
銀座のブランドショップで、大人っぽく見えるドレスをとお願いし見繕ってもらったので間違いはないとは思うが、それでも少し心配だった。

――うーん。まあ良しとしよう。

どんなに眺めたところで変わるわけじゃないので、今度はドレッサーに座って顔の角度を変えながら鏡を睨む。

憧れの縦巻きロールをしてみたくて、少しでも早く伸びないかとせっせとブラッシングしているが、髪はニョキニョキと伸びるわけじゃない。

髪は待つしかないが、丹念な練習のお陰で化粧は随分上手になった。
アイラインもマスカラもよし。

伸ばしている前髪を横に流し片方の髪を耳にかけ、クリスマスのプレゼントに夕翔が買ってくれたピアスを付けた。


「お待たせ」

既に着替えを済ませソファーで雑誌を広げていた夕翔は、向葵を振り返ってニッコリと目を細くする。

「じゃあ行こうか」と立ち上がった。

口から出そうになった可愛いという言葉を、夕翔は呑み込んだ。

「よく似合ってる。綺麗だ」
「ふふ、ありがとう」

「でも、寒くないの?」

スカートの裾はチューリップのように広がっていて、向葵の足を包むのは薄いストッキングだけ。

「うん。ホテルに入っちゃえば大丈夫。外を歩くわけじゃないし」

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