愛さずにはいられない
この日まで奈央と仁はほとんどすれ違いの生活をしてきた。
奈央は奈央で秋の特集号の編集作業で忙しく帰宅が深夜を回ることも多かった。
仁も帰宅するのは明るくなってからという日も多かった。
ふたりとも長期の休暇を取るために必死に働いた達成感のようなものと共に、この旅行がご褒美の時間のように思っていた。

「少し眠ったら?」
仁が疲れが出ている奈央の顔を見て奈央に話しかける。
「大丈夫。なんかワクワクして眠れないの」
「遠足前の子供か」
「ふふっ。」
奈央は自然と仁の肩に頭をのせた。

「昔からそうだな。奈央は楽しみの前には眠れなくて、いざその日になるとすぐ眠っちゃうんだよな。」
「ばれてた?」
懐かしい思い出がよみがえる。
「でも今回は1週間もあるから、何日間かはのんびりできる日も作れるな。」
仁ははじめから奈央の状態を予測して旅行の日程を考えていた。
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