愛さずにはいられない
「でも、絃にはわかってたんだ。俺の考えが。絃が奈央に気持ちを伝えれば、二人はうまくいくってわかってた。それでも、俺が奈央をあきらめられなくて、ほかの人で気持ちをごまかそうとしてることも、絃にはお見通しだった。」
知らなかった・・・。あんなに一緒にいたのに。3人一緒にいたのに・・・。
そんな気持ちがあふれる。
「あの日の電話で、俺は絃からスタジオに呼び出されてた。」
「え?」
「でも行かなかったんだ。俺は・・・」
「・・・」
「きっと絃はそこではっきりさせようとしてたんだと思う。自分の気持ちも、俺の奈央への気持ちも。でも、あの時俺はいかなかった。」
仁は絃と奈央がうまくいくことを選び、自分は奈央への気持ちをあきらめる覚悟を決めたのだった。
「絃は電話で怒ってたよ。大人ぶって気持ちごまかすなって。ちゃんとぶつけてもいないのにあきらめようとして、ほかの人を奈央の代わりみたいにするなって。」
仁は奈央を抱きしめる手に力を込める。
「俺は一度、奈央をあきらめた。なのに絃があんなことになって・・・。」
奈央の心が痛みだす。でも同じくらい仁の心だって痛んでるのだ。
その痛みを表に出さないだけで、仁の心はずっと痛んだままだったんだと奈央は知った。
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